認知症対策「熊本モデル」の試み

(中)精神科受診に根強い偏見 かかりつけ医の連携急務

県認知症疾患医療センターの各地域拠点型センターや介護福祉関係の担当者を集め熊本大病院で開かれている事例検討会

 6月初め、熊本市の熊本大病院に県認知症疾患医療センターにかかわる医師や看護師、介護支援専門員ら50人ほどが集まった。センター開設の2009年7月以降、ほぼ毎月開かれている事例検討会だ。


 七つの地域拠点型センターの一つで阿蘇郡市唯一の精神科、阿蘇やまなみ病院の報告もあった。医療機関を受診しながら、なかなか精神科の専門医につながらなかったケース。発表した看護師は「地域内に専門医療機関が乏しい上、精神科への偏見が根強い」と背景を説明した。


 かつて「年寄りだから仕方ない」と医師さえ見放した認知症。近年は原因となる疾患の診断や治療法が「急速に進歩している」と、熊本大神経精神科の池田学教授は解説する。


 ひとくくりに認知症といっても、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症など多様な種類があることが明らかになってきた。進行を遅らせる治療法も進み、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症などは手術で完治も可能。介護家族が困惑、苦悩する妄想や幻視、暴力行為なども実は症状の中心ではなく、適切な対応や環境によって改善できると分かってきた。


●不適切な診断も


 しかし、県精神科病院協会の宮川洸平会長は「誤って診断されるケースもある」と指摘。その結果、適切な治療や介護を受けられず、患者や家族の暮らしが混乱。適切でない処方薬で症状が悪化することもあるという。


 「だからこそ、専門性があり、難しい症例を数多く診ている精神科の役割が重要」と宮川会長。熊本モデルという新たな医療体制が、各地の精神科病院を中核に位置付けたことで、「精神科への垣根が低くなり、早期診断に結び付くケースが増えてきた」と話す。


 阿蘇地域では、精神科を敬遠する患者も受けやすいよう、阿蘇市役所を会場とする「もの忘れ相談」を昨年10月スタート。窓口の同市認知症対応強化型地域包括支援センターが、事例ごとに阿蘇やまなみ病院との連携を密にしている。かかりつけ医の「認知症対策協力医」指定も始まった。


●目指すは3層構造


 基幹型、地域拠点型の2層構造で注目される熊本モデルだが、導入した県長寿社会局の江口満局長は「目指すのは3層構造。最も患者と近いかかりつけ医も組み込んでこそ、熊本モデルは機能する」との考えだ。


 八代地域は07年、かかりつけ医や介護担当者による「やつしろ認知症研究会」が発足、地域連携に積極的だ。


 今年4月には八代市内の全世帯に「もの忘れ相談手帳」を配布。症状のチェックリストや相談先、「もの忘れ相談医」のかかりつけ医一覧を載せた。認知症患者の基礎的な状態を記載する「もの忘れ受診手帳」も各医療機関に置き、病院間で情報が共有できる仕組みも具体化した。


 それでも研究会世話人のひとりで、開業医の西文明医師(内科)は「やっとフローチャート(図式化した手順)ができた段階」。団塊世代が認知症を発症しやすい年齢に突入する10年後を見据え、「(2層構造の)認知症疾患医療センターだけでは確実にパンクする。かかりつけ医の対応が急務」と警鐘を鳴らす。


 かかりつけ医への研修は、これまでも厚生労働省のカリキュラムとして実施されてきたが、「基礎的内容ばかりで、実践につながらない」との不満も聞こえる。そこで県と県医師会が協力して今秋から新たな研修を始める。県認知症疾患医療センターがより実践的な内容を手掛ける。「認知症に関するかかりつけ医の知識はまだまだ少ない」(宮本憲司朗・県医師会精神保健担当理事)という現状の打開に動きだす。(小多崇)

 

(熊本日日新聞 2010年7月23日朝刊掲載)

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