認知症対策「熊本モデル」の試み

(上)県内7病院、身近な拠点に 介護サービスと連携も

地域拠点型センターに指定された7病院の一つ、平成病院の玄関に設けられた認知症疾患医療センターの看板=八代市

 新たな認知症対策としてつくられた県認知症疾患医療センターが2009年7月スタートし、1年が過ぎた。厚生労働省の計画とは違う独自体系は、県内七つの「地域拠点型」の精神科病院と、より専門性の高い「基幹型」の熊本大付属病院が核。介護サービスとの連携強化も図る。全国が注目する「熊本モデル」の現状を追った。(小多崇)

 

 昨年12月、八代市の男性が消化器系の病気で市内の病院に救急搬送された。数日間入院したが、自宅と区別が付かず、他の患者の物を取るなどしたため認知症が判明。「対応できない」と退院を求められた。同時に、妻が病院から帰宅できなかったトラブルをきっかけに、妻の認知症までもが明らかになった。夫婦はともに80代前半で2人暮らし。


 対応困難なケースだが、地域拠点型センターの平成病院(同市)が転院に応じた。しかも妻の入院も、夫と同室で受け入れた。夫婦が離れたことが認知症悪化のきっかけと判断したからだ。


 窓口となったのは、地域拠点型センターと合わせて指定された「認知症連携強化型」の同市地域包括支援センターあさひ園。連携担当者の廣田みどりさんは、「熊本モデルの機能が生かされたケース」と話す。


 同園が対応した別のケースでは、かかりつけ医が「異状なし」としていた独り暮らしの女性(78)を平成病院につないだ結果、「認知症の初期症状」と診断。それまで受けられなかったデイサービスが可能となり、きちんと飲めていなかった薬の管理をサポートできるようになった。診断時、東京から駆け付けた長男の妻(48)は「診断は科学的で、時間を掛けて丁寧。(義母の)症状は落ち着き、安心している」と言う。


●独自の2層構造


 認知症疾患医療センターは、厚生労働省が08年度始めた医療体制だ。目的は、(1)専門医による早期診断(2)幻覚、妄想、徘徊[はいかい]など介護負担が重い精神症状・行動障害の治療(3)身体合併症との調整(4)介護との連携、など。精神科を持つ総合病院を全国150カ所程度、熊本県内では2カ所を想定していた。


 しかし、認知症患者は県内だけでも推定5万人、今後の増加も確実だ。「今や認知症患者は圧倒的な数。県内2カ所で対応できる水準ではない。"最後のとりで"となるセンターはより身近に置く必要がある」。認知症が専門の池田学・熊本大神経精神科教授の指摘を反映したのが熊本モデルだ。
 特徴は基幹型、地域拠点型に分けた2層構造。地域拠点型センターは各地の精神科病院のうち、専門医や診断機器が整った民間病院7カ所。厚労省が想定した役割の大半は、この地域拠点型が担う。


 唯一の基幹型センターである熊本大病院は、より高度な診断や合併症への対応など、地域拠点型を専門的にバックアップする。地域ごとの医療レベルを引き上げるため、研修にも力を入れる。


●「2、3カ月待ち」


 県長寿社会局によると、今年6月までの1年間で基幹型と地域拠点型計8カ所の外来件数は延べ3万3300件、入院も440件に上る。


 その一方で、受診予約から診断につながるまで「2、3カ月待ち」というケースも生じている。身近な存在を狙った地域拠点型センターだが、平成病院の場合、八代だけでなく人吉・球磨、水俣・芦北も含む県南地域を担当。熊本モデルが目指す「30分圏内」には収まりきれない。


 緊急対応のため県予算で空きベッドを確保したのは熊本大病院の1床のみ。通常は精神科病院間のやりくりで対応している。平成病院の坂本眞一院長は「最後のとりでを実現するには、地域拠点型にも空きベッドを配置してほしい」。


 新たな体制づくりは緒に就いたばかりだ。

 

(熊本日日新聞 2010年7月22日朝刊掲載)

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